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妄想垂れ流し。 SS駄目な人は注意してね。 基本的にエロパロ版のゆゆこスレで投下したのを載せてます。
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・竜児 大河 大河の親
・わがまま


「えーんえーん」
……どこからか、泣き声がする。
「なんで誰もわかってくれないのよ、えーん」
悲痛な声が頭に響く。どこから聞こえるんだろうか。
……誰だかわからないが泣き止んでくれ、俺がわかってやるから。


それはとても不思議な光景だった。
場所は多分大河の家。大河が置き去りにされたことを象徴するかのような家。
多分とつけたのは、ひどく曖昧なのだ。すべてが。
部屋の形はところどころ歪み、テレビもソファーもキッチンも水の中を漂うかのように歪に姿を変える。
そして大河のかけるソファーの正面に居る二人の人間の顔すら、はっきりと見えない。
ただその歪な空間で大河だけははっきりとしていた。まるで本人の性格を現すかのように、堂々と。

竜児はそんな空間を上から見下ろすように浮いていた。
よく話しに聞く様にこれが幽体離脱なんだろうか、と考えてやっぱりこれは夢だな、と思う。
だって大河からも、顔にモザイクをかけたような二人からも心の声、とでも言えばいいのだろうか。
そんなようなものが聞こえるのだから。

「ごめんな大河。きっと迎えに来るから少しここにいてくれ」
――ああやっと出て行ってくれるのか。正直この子が居ると夕とゆっくりできないからなあ。
「大河。あなたはこれからしばらくここで暮らすのよ」
――まったく、これから新しい男の人と結婚するってのに子連れでいれるわけないじゃない。

……胸くそが悪くなる。なぜ、どうしてそんな傲慢で自分勝手な考えで大河を一人にできる?
あまりにもひどいではないか、大河は泣き虫なんだぞ、そんなのに耐えられるはずがない。
なのにそれでも大河は笑う、

「うん分かってる。大丈夫だからもうここに来てくれなくてもいいよ」
――置いていかないで。一人にしないで。

心で泣きながら。
それでも自信と、傲慢と、不遜で出来たようなまなざしを向けて。


大河は強い。力もあるし度胸もある。胸は無いが。
こいつに関わってから数ヶ月。初めて出会ってから今もよく思う、大河は本当に強いのだ。
この前の文化祭。父親に期待して裏切られて、それでも誰の助けもなく立ち上がった大河。
そのときに心底分かったのは、大河の底知れない強さ。何度でも這い上がってくる強さ。
そんなにまで大河を支えていたものは何だったのだろう。櫛枝か、北村か、クラスの奴らか。

そうだったはずなのに、目の前にいる大河は弱い。
今にも倒れそうで苦しみの中でもがいて、助けを求めている。
だから助けなくちゃいけないんだ。大河が泣き虫だと知っていて、わがままだと知っていて、弱いと知っている奴が。
それが出来るのは今ここにいる自分、高須竜児だけ。それを知っているのは自分だけ。
傲慢な考えだろうか。それが嬉しいと感じるのはなぜだろう。
そして同時に浮かび上がってくるくすぐったいような、もどかしいようなこの気持ちは自分でもよく分からない。
分からないけれど。

「それじゃあ、また来るから」
――だから大人しくここにいてくれよ。
「ちゃんといい子にしてるのよ」
――間違っても追ってこないでね。

「うんじゃあね」
――私を、一人にしないで。

「お前らいい加減にしろよ……。どうしてそう自分勝手なんだ!
 どうして大河を一人に出来るんだ!大河が泣いてるのがわかんねえのか!
 大河も大河だ、もっと甘えろ!傍に居てほしかったら居てって言ってみろ!
 そうすりゃお前の傍に居てくれる奴は必ずいる!」

いつの間にか浮遊感たっぷりの上空から、顔の分からない二人と大河の前に居た。
そうして言ってやった。これがいいことなのか、正しいかなんて分からないが。
言った途端、確信は無いが大河の親だと思われる顔の曖昧な二人は唐突に消えた。
消えて、大河と二人、曖昧な空間に取り残された。
「……」
気まずくてそっぽを向いてしまったのでよく見えないが、大河の目は驚いたように見開かれていた。
そりゃそうだろう、いきなり出てきた奴に全部分かったようなことを言われれば誰だって混乱する。

何を言うでもなく二人の間に沈黙が流れる。
曖昧なこの空間があるおかげで大河との距離感が分からないのが幸いか。
そしていつの間にか大河の心の声も聞こえなくなってしまったようだが、きっとそれはそれでいいのだ。
相手の心が分からないから相手のことが知りたくなるわけで。
などとそんなことを考えていると不意に大河から話しかけられる。

「アンタ、なんでこんなとこにいるのよ」
……ごもっともだ。
せっかくだからカッコいいことを言いたかったのだが、どうもそんなセリフは自分には到底言えないらしい。
二秒ほどの間に頭の中をものすごく多くの考えと言い訳がめぐり、それでも出たのは


「……おう、ちょっと散歩がてら、な」


そんな、訳の分からない言い訳だった。


***


チュンチュン……チュンチュン……
朝。いつもの鳥の鳴き声。いつも見上げているのと同じ、今にも雨漏りしそうなボロい天井。

「夢、か……」
ありがちなセリフを言ってしまった、と思いつつ起き上がって頭をスッキリさせようとベランダに出る。
どうも色々あった秋も終わりかけているのだろう、やたらに外が寒くなってきた。

「おうっ」
ベランダに出ると、向かいの窓には機嫌の悪そうな大河の顔があった。
今しがた起きて来ました!とアピールするかのようにボサボサの髪をして。

「どうした、随分と不機嫌じゃねえか」
「不思議な夢を、みたわ」
まさか、とは思ったがそれがどんな夢だったかは聞かない。それでいい。

「……俺も不思議な夢をみたな」
ふと、夏の頃のことを思い出した。
二人とも同じ夢を見て、それが警告夢だどうにかしなきゃー!と川嶋の別荘で悪戦苦闘したことを。
散々苦労した挙句、結局は櫛枝に上手いこと騙されたのだが。
思えば随分と長くこんな不思議な関係を続けてきたもんだ、と竜児は少し苦笑してしまう。

急に笑った竜児を不審に思い方眉を吊り上げながら、大河は考え顔だった。
言いたいことがあるのにどう言えばいいか分からない、まるでそんな顔。
そんな大河の口から出てきたのは、

「……竜児。アンタこれから一生私のコック長ね」
「おう……は?なんだって?」
「はい決定。あーあかわいそう、卒業した後も私に尽くさなきゃいけないなんて。
 いやむしろそれって幸せなことじゃない、ちゃんと全部残さず食ってやるんだし」
「いやちょっと待て大河!突然訳が分からないこと言うんじゃねえ!」
「なによ、男に二言があるっての?
 あー情けない、自分の言ったことには最後まで責任持ちなさいよね」
「おっ……お前って奴は…」
そんな傲慢なセリフだった。
やっぱり大河は、果てしなくどこまでも天上天下優雅独尊な手乗りタイガーなのだ。

「ついでに掃除・洗濯も当たり前にやってもらうとして……
 そうねえ、いちいち来てもらうのも面倒だしやっちゃんとこっち来て住めばいいのよね。
 家賃もかからなくて済むし大好きな掃除も毎日出来るしいいこと尽くしじゃない」
「おうっ……!お前!それはさすがに物申すぞ!」
「なによ」
ギロリと一睨み。……それだけで言葉に詰まってしまう自分が情けない。
そして大河はそんな様子を見て満足げに「ふふん」と鼻を鳴らし、勝ち誇った顔で

「あーあ、大変だあ」
と笑っていた。
それだけで、大河が笑っているだけで「それもいいかな」と思ってしまう。
なぜだろうか。それはよく分からないが、とりあえず適当にあしらっておく。
そうして、逢坂大河専用のコック長に就任して初めての朝食を作り始めるのだった。


だから、ベランダから早々に引っ込んでしまった竜児は見ることはできなかったのだ。


「だから、ずっと傍にいなさいよ」
そう小さく、本当に小さな声で言った顔を赤らめる大河を見ることを。
なんだかむずかゆくて、くすぐったくって、そんなよく分からない気持ちが出てしまっている顔を。


今は世界の誰も。いつかは見つける竜児でさえも。

 

end
 

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プロフィール
HN:
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性別:
男性
趣味:
とらドラのSS書き
自己紹介:
大河超可愛すぎ

竜児と大河に幸あれ

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