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・竜児 大河 櫛枝 北村 川嶋
・七夕イベント
「おぉ、よく星が見えるなぁ」
竜児はその鋭い三白眼を細め星が瞬く空を見上げる。
決して、隕石まで俺の思い通りだ世界の愚民共泣けわめけ…などと考えているわけではない。
今日は7月7日――そう、七夕だ。
竜児は大河、実乃梨、川嶋、北村の5人で商店街主催の笹の葉に願い事をかけに来たのだ。
~~~
そもそもこんなことになったのは、昨日の大河の一言だった。
「ねぇ竜児、明日のお団子は買わないの?」
いつもの帰り道、いつもの店で魚を選んでいた竜児の手が止まった。
今日は簡単にシャケのムニエルを作り、余ったシャケで明日のおかずだな…などと考えていたのだ。
そんな考えが一瞬で吹き飛ぶ。
団子…?なにを言ってるんだこいつは?
「聞いてるの竜児?」
思考も動きも止まった竜児をいぶかしんだ大河が再び問う。
…あぁ、こいつ、もしかしてお月見と七夕を勘違いしているのだろうか。
ありえる、なんたってこいつはドジで凶暴な手乗りタイガーなんだから。
だから正そうと思ったのだ、が。
「大河、月見団子ってのは七夕では食べないんだ。
…たぶん…え、あれ…七夕って団子食わないよな…?うん、食わない…のに…」
竜児は完全に呆れてしまう。
大河の指差す先を目線で追ったのだ。
そしてそこには…
「ここで買い物をしていて大丈夫なのだろうか…」
と思わずため息を漏らしてしまう。
竜児が見たもの、大河の指の先には。
『明日は七夕!今日と明日だけのお月見団子セール!』
という目を疑うようなキャッチコピー。
なぜなんだ。
なぜ誰もツッコまないのだ。
っていうか何気に結構な人が買っていくし…。
竜児は横の大河を盗み見る。
…大河の口からは一筋のよだれが。
「おおぅ!」
垂れ落ちる前になんとかフォロー。
口元までぬぐってしまおう。
「ふぁにふんふぉふぉ!」
なにすんのよ…か。自分でヨダレに気づかないとは。
拭いている最中も大河はしゃべる。
「おふぁんふぉふぁっふぇふぁしふぁふぁふぇふぉー」
お団子買って明日食べよう…か。…確かに団子は久しぶりだし食いたいな。
「よし。それなら材料を買って今から二人で作るか」
「ふぁふぁふぃふぉ?…ふぉふふぁふぁふぁふぁふぁー」
私も?しょうがないなぁー…か。たまには大河に手伝ってもらうのもいいだろう。
どうせ大河には丸めてもらうくらいしかできないんだ。
いつの間にか大河翻訳機のような機能が自分に追加されているが、竜児は気づかない。
「よし拭き終わり。明日は北村も呼んで作ったの食ってもらうか」
「……!竜児!上手に作るにはどうするの!」
張り切る大河を横に、アドバイスをしながら材料をそろえる。
たまにはこんなのもいい…と思いながら。
~~~
高須家にて。
…ただ丸めるだけなんだが。
大河は一世一代の大勝負のように作っていた。
北村に大きいのを食わせたいのは分かる。
気持ちは分かるが…それは…。
「おにぎり…?」
完全に、おにぎり…しかも綺麗な三角型の。
「はっ…!ついいつものくせで…」
プルプルしながら口を三角にして驚いている。
いつもも何もおにぎりなんか作ったことないくせに…。
口には出さずに苦笑する。
口に出したら蹴りでも飛んでくるだろう…
大河がそんなやつだと分かってるから竜児は口を出さないわけで。
そんなこんなで結局竜児が残りの団子を全部作り、夜は更け、朝が来て、学校。
竜児は北村を誘う。
大河は実乃梨を誘い、嫌がる川嶋も挑発しながら誘う。
実乃梨の提案で商店街の笹の葉に願いをかけに行くことを決め、今に至るのだ。
~~~
「わぁーでっかいねぇ!パンダもびっくりだよ!」
実乃梨が驚いたように言う。
確かにでかい、ゆうに5mはあるだろう。
北村も驚いたように言う。
「大きいなぁ!それに結構な数の願い事がかけてあるな。
さ、俺たちもせっかく来たんだし書こうか!」
そうして5人はそれぞれに分かれて願い事を書き始めた。
そのとき、竜児に北村アピール作戦のいい案が浮ぶ。作戦は、『さりげなくアピール大作戦』だ…。
自分のアイデアのよさに酔いしれつつ大河に声をかける。
「…大河。」
ビクッ!と大河は驚き、願い事を書いた紙を後ろに隠す。
別にいまさら北村とのことを書いていることくらい分かるってのに…。
「大河、…いい考えがある。
その願い事を見えやすいところに吊るせ。
俺がそこに北村を誘導して、願い事が見えるようにするから、だから…う」
大河がものすごい不機嫌な顔でにらんでくる。
その目は、恐ろしい三白眼をもった竜児にしりもちをつかせるほどだ。
「…だから、なに?」
「だから…北村のこと書いてんだろ…?…アピールするのに…いい…じゃ…ねえか」
「…」
だめだ、これは完全に…怒っている。
なぜだ、と考えつつ飛んでくるであろう蹴りに対してガードを固めたとき。
「逢坂は何を書いたんだ?」
ひょいっと。
北村は後ろから大河の願いがかかれた紙を取ってしまう。
「「!」」
大河と竜児は同時に驚く。
とっさのことで二人とも反応できない。
大河は顔を真っ赤にして鯉みたいに口をパクパクしている。
それはそうだろう、なんたって好きな人にその人の願いを書いた紙を見られたのだ。
しかし、それなのに北村のあの目は…なんだ。
「…」
願い事を見た北村は、優しく微笑む。
まるで、やっぱり、と言いたいような。
そんな、優しい目で。
竜児と、大河のお互いを。
「…おっと、勝手に見てしまって悪かったな。
これは俺が責任を持って、見えないように高いところにかけてこよう。
…逢坂、それでいいか?」
大河は顔を真っ赤にし俯きながらうなづく。
どうなっているんだ、なぜ北村は自分のことを書いてあるはずの紙をみて平然としている。
竜児は完全にこの流れについていけてなかった。
そんな二人を置いて北村は大河の願いをかけに行ってしまう。
「…なんなんだ、お前は、一体何を書いたんだ…?」
北村の目と、目線の意味が理解できない。
一体どうなってるんだ…。と油断した瞬間。
あ、これは顔面もろだな、と。
まるで走馬灯のように周りの景色がスローモーションになり、思考がすばやく回転する。
そして。
大河の蹴りが竜児の顔を捉える。
「うっさーい!お前にはまったく関係ないことかいてんじゃーー!!」
ドカバシベギャ。
一体何なんだ…。
その真っ赤にした顔は北村に向けるべきだっただろう。
なぜ俺に向け、ついでに蹴りまでくれてるんだ…。
薄れ行く意識のなか実乃梨と川嶋が視界に入る。
なにを話しているのかは知らないが、こっちも暖かい目で竜児と大河を見ている。
ほんと、一体何なんだ…。
ただ自分の顔が砕ける音だけがやけにはっきりと聞こえた。
~~~
竜児が息を吹き返して後、竜児の家で今日の目的である月見団子フィーバーが始まった。
さっきまでの記憶がひどく曖昧だったが、
とりあえず実乃梨が喜んで食べてくれたのでよしとした竜児だった。
そんな竜児のまえにずいっと。
おにぎり団子もといバケモノ団子が現れた。
「お、おぉう…」
その迫力に竜児はうろたえるしかない。
それでもさらにずいずいっと。
「た、大河…?」
ずいずいずいっと。
「これを…食えと?」
ずいずいずいずいっと。
「でもこれ北村にやる用だろ…?」
「あんた、ばかねぇ。こんなの北村君にあげたら嫌われちゃうじゃない」
ずいずいずいずいずいっと。
「…」
俺ならいいのか…。
というか、これを食う、のか…。
形はおにぎりだ。大きさもおにぎりとほぼ同じだ。
しかし…大河のあの力でグイグイ固めてたんだぞ…。
硬さなら某アフロの世界チャンピオンの固めた拳に匹敵するかも知れない。
「ええいままよ!」
ガギッ
食う。歯が欠ける。
なにこれ。こんな硬い月見団子がこの世にあっていい訳がない。まさか幻のオリハルコン?
北村への気持ちは分かるが…これでは確かに嫌われはしないでも引かれるだろう。
しかも大河のやろう、こっちを放っておいて月見団子にみたらしなんかかけて食ってやがる。
…うまそうじゃねえか。
「おい大河…って垂れてる垂れてる垂れてる」
みたらしをべちょーっと、今にも床にたらしそうだ。
ふうっと竜児は大河の口をハンカチで拭く。
実乃梨は口をハムスターのようにして食べている。
川嶋もなんだかんだでヒョイヒョイ団子を食ってくれている。
北村は…ズボンが膝まで落ちている。この裸族め。
「ふぁふぃふんふぉふぉー」
大河も団子を味わっている。
こんな日が続けばいい、と、竜児は窓から星を見上げて思った。
今は星と月だけが見ていた。
すれちがう思いを抱く5人を、暖かく見守るように。
end